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中華料理を食べ残すとか残さないとかそういう問題ではなく

 こんなツイートが知り合いからのRTで回ってきて、まあさすが影響力のある人だけあり3000RTくらいにはなっていたんだけど、個人的にはこの西川さんのツイートこそ鵜呑みにしたらマズいんじゃないかなぁと思ったので記事を書く。


 まず、中華料理は食べ切ると失礼になってしまうということについて。

 もともとこの考えは「お客さんが料理を食べ切る=満足していない」という考えに基づいている、というのは知られている話だと思う。自分がお客さんという立場のときに出された食事すべて食べ切ってしまって、もてなす側の中国人がどんどん追加で注文してしまった(あるいは料理を持ってきた)なんて失敗談はよく聞く。私も高校生の時、中国からの留学生に本格中華をごちそうになり、食べ切ろうと必死になっていたら「食べ切らないほうがいいんだよ」と言われたことがある。

 中国の文化は「満ち足りる」ことに重きを置いている。だからなのか、与えるときは余るくらいに、というのが慣習のようだ。海外にやってきた中国人が「爆買い」していくのは、親戚や友人(しかもこの「親戚」の範囲も日本よりずっと広い)に余るほどのお土産を渡すからである。「たくさんもらったら迷惑だろうから、ひとつだけでいいです」なんて言うのは、彼らのプライドを傷つける恐れがある。

 もちろん、家での食事であれば残したら怒られるということは十分にありえるだろう(私は中国の家庭で育ったわけじゃないのでホントのところはわからないが)。それに外食にしたって、確かに最近は中国でも食べ残しはやめようという考えが広まってきているらしい。数年前には光盤行動(だったかな?)というのがニュースになっていた記憶もある。中国事情に詳しくない私が「その考えが一般的だ」と言い切ることはできないが、そうでないと言い切ることもできない。

 しかし、「食べ切ると失礼」(というか「お客さんが食べ切れる量の料理を出すのが失礼」)という考えは確かに存在していたし、今もしているかもしれない。その考えを「都市伝説」とか言い捨てるのはいかがなものかと思う。

 ただ、私が今回のエントリーで言いたいのは、中国文化に対する西川さんの認識が間違っている! とかそういうことではなく。

「世界のどこに行ったって、食べ物は残さない方がいいに決まってんじゃんね!」という部分である。

 ある価値観が、世界のどこに行っても通用する絶対的なものだ、という考えを持つのはあまりよくない。意外にもひとつの文化の中で通用している価値観というのは脆いもので、おそらく世界のどこを探しても「世界のどこに行ったってそうに決まってる」という価値観は存在しないのではないか。「人を殺してはいけない」という価値観だって、死刑社会では完全には通用していないわけだし、妊娠した女性に牛を贈れば父親として認められる社会もある。それでもある程度普遍的な最低限のルールを作ろうとして国連人権委員会とかが頑張っているわけだけど、まあうまくいってないので戦争とかが起きるわけである。「笑顔に言語の壁はない」とか言うけれど、言語の壁にぶつかったときに笑顔で乗り切ろうとすれば「何ニヤニヤしてんの?」「バカにしてるの?」と言われても全く不思議ではない。笑顔にも文化の壁はある、残念ながら。

 そういうとき何が大切かというと、「壁がある」ということを知ることだ。この世の文化全部を頭に入れておくことができたら素晴らしいけれど、そんなことできる人間はいない。でも、「自分の常識と相手の常識は違うかもしれない」と思っておくことはできる。そうすれば、壁にぶつかったときに、相手を責めたり自分を責めたりする必要はなくなる。うまく対処することもできるかもしれない。

 最初の中国人留学生は、日本では出された食事すべてを平らげるのが礼儀だということを知っていたから、わたしがそうしようとしたとき止めてくれた。逆に私が日本文化に明るくない中国人を日本の料理店に連れていくことがあれば、食べ切ったほうがいいんだよと教えることができただろう。余裕があれば、どうしてそうなのか? を知ることで、お互いの文化に対する理解を深めることができる。最初から「この価値観は絶対的なはずだ」という考えを持ってしまうと、壁にぶつかったとき、相手に不信感を抱いたり、怒りさえ覚えたり、相手の文化を見下すなんてことにもなりかねない(私に「なんで笑うの?」と問いかけた女性はそうだっただろう。残念ながらそのとき理由を説明できるほどの語学力が私にはなかったので)。

「自分の常識は通用しないかもしれない」この感覚を持つことが、文化と文化が分かりあうための第一歩だ。私と西川さんじゃ影響力は天と海底2万マイルほども違うけれど、1人でも多くの人にこのことを考えてもらえたらうれしい。